novel

□Shiver 番外編
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青い空に映える緑の山々。
田舎の景色と空気はいいなぁ、と車から降りて伸びをする。
着いた先は露天風呂が有名な旅館。改築したばかりらしく外観がとても綺麗だ。

「着いたーっ」

弥子ちゃんが車から降り、笹塚さんが車から降ろしたキャリーバッグを受けとる。

「おつかれさま」

「いい眺めですね!旅館も綺麗だし最高だー」

「ほんとだね。あ、見て、あんみつって看板あるよ!あとで行こっか」

旅行なんて何十年ぶりだろう。胸が踊って弥子ちゃんと同じぐらいはしゃいでる自分がいる。

「ほら、中入ろう」

笹塚さんが私のキャリーバッグもがらがらと引きながら旅館の玄関に向かう。私たちもそのあとに続いた。




「うわー!絶景!」

部屋は二階の眺めのいい部屋だった。もともと旅館が丘の上にあるため、二階からでも景色が一望でき、最高だ。

「なんか凄い変な感じだな」

「なんでですか?」

「こんな静かなの久しぶりだから」

笹塚さんがタバコに火をつけて私が立っている窓のそばにくる。確かに静かだ。普段は私達が何をしなくてもがやがやしている都会にいるから、余計にそう感じるのかもしれない。

「たまにはいいな。それに…」

「それに?」

「今はゆいがいるから特に」

笹塚さんの言葉に顔が熱くなるのを感じた。そんな私を見て笹塚さんはふっと笑みを浮かべ、そっとキスをしてくれた。

――一方隣室

「わぁーっ!めっちゃいい部屋だ!」

「どうでもいい。我輩は源泉を探しに行ってくる」

「やっぱ目的はそれか…。今回はゆいさんや笹塚さんがいるんだから魔界魚とか放たないでよね」

「……」

「なにその笑顔、怖い」







「あんみつーっ」

「あんみつーっ!」

「元気だな、二人とも…」

先程見つけたあんみつのお店に来たネウロを除く私達は、早速あんみつを注文した。
でてきたあんみつは結構盛ってあって驚いたが、全部美味しくいただいてしまった。

「美味しかった…まだ食べたい…」

「弥子ちゃんも?私も食べたい」

「俺はもういいわ。美味いけどさ、盛りすぎだろ、これ…」

笹塚さんは三分の一くらい残して、タバコ吸いに行ってくると外に出た。
私が笹塚さんが残したあんみつを食べ始めると、弥子ちゃんはもう一つ注文した。

「そういえばネウロはどうしたの?」

「え、あぁ。源泉に浸かりに…」

「源泉!?」

「はい。なんか、いいらしいです」

「…それでこの話にくいついたんだ」

魔人さんが考えることはよくわかんないなぁ、と思いながら私は空になったあんみつの皿を見て、もう一つ注文することにした。

「でも、私が来てもよかったんですか?」

「なんで?」

「いや、せっかくの旅行なのに…二人きりがいいんじゃないかなって」

「あー…。やっぱ気にする?」

そんな話をしてると笹塚さんが戻ってきた。自分が残したあんみつの皿が空になっているのを見て「食ったの?」と笑う。

「食べました。私も弥子ちゃんもさっきもう一つ注文したとこです」

「マジで?まぁいいけど」

「それより、やっぱ弥子ちゃん気にしてるみたいです。せっかくの旅行なのにって」

「ああ。気にすることないから。家でも二人きりだし。四人いたら飯も賑やかだろ」

笹塚さんの言葉で弥子ちゃんは安心したのか、運ばれてきたあんみつを先程より美味しそうに食べていた。






「ふぅ…胃もたれ…」

刺身の盛り合わせや鍋など豪華な夕食を終え、笹塚さんと部屋に戻ってきた。
久しぶりに甘いもの以外を胃に入れて激しく胃もたれしている。

「胃もたれするほど食べてないだろ。弥子ちゃんが八割方食べたんだし」

「いや、甘いもの以外は胃が…」

「どういう体の構造してるんだ」

机のそばに座り、タバコに火をつけた笹塚さん。今さらだけど、笹塚さんのタバコを吸う姿はかっこいいと思う。

「……どうした?」

「え、いや、なんでもないですっ」

ボーッと見てたからだろうか、笹塚さんが不思議そうな顔をしている。

「あ…風呂入ってきたら?」

「そ、そうですね」

キャリーバッグから着替えをとり、弥子ちゃんを誘って露天風呂に向かった。







「…ゆいさん、スタイルいいですね」

「いや、そんなことないよ。弥子ちゃんスタイルいいでしょ」

「いや、私は凹凸が…」

服を脱ぎ、私も弥子ちゃんもなんとなくタオルを巻いて、そんな話をしながら露天風呂の扉を開ける、すると。
なんか、ありえないものが見えた。気がした。

「ネウロだ…」

「え?今の幻覚じゃないの?」

ザバンッという水音とともに見たこともない大きいアンコウみたいな魚が温泉からでてきた。

「うわぁぁっ!?」

「多分魔界魚です、あれ」

「魔界魚!?」

ネウロ、何放してんの!?

「どうかしたか?」

「わぁぁぁ笹塚さん!?」

突然脱衣場に入ってきた笹塚さんに弥子ちゃんが声をあげる。

「あ、ごめん。混浴って書いてたから入ってきた。それより悲鳴聞こえたんだけど…」

「あ、あの、風呂の中に…」

「ん?」

笹塚さんが風呂の湯の中を覗きに行ってしまった。ダメだ、食べられちゃう!

「笹塚さ」

「なんもないけど?」

「え?」

笹塚さんは「大丈夫だよ」と言って脱衣場から出ていった。

結局笹塚さんがいなくなってからまた現れたので、私も弥子ちゃんも露天風呂にはつかれずじまいで体と髪だけ洗って部屋に戻った。
明日に期待しよう。
私が戻ったあと、笹塚さんが露天風呂へ行った。どうやら満喫したらしく「いい湯だった」と満足そうに部屋に戻ってきた。羨ましい。

部屋に敷かれた布団に潜り込むと、笹塚さんはわざわざ自分の布団から私の布団に潜り込んできていつも通り抱き締めてくれた。

「最近こうしてないと落ち着かなくなってきた」

「…私もです」

寝間着に浴衣を着ているため、笹塚さんの胸板がみえてなんか恥ずかしい。

「浴衣」

「はい?」

「似合ってるよ。ただ…」

笹塚さんはじっと私を見て

「下が下着だけだから谷間が見えて気になる」

と言った。私は慌てて少し乱れた浴衣をなおす。

「なおさなくていいのに」

「笹塚さんが恥ずかしいこというからです…」

すると、笹塚さんは私の額にそっとキスをした。

「露天風呂さ、混浴だし明日一緒に入るか?」

「えっ!?はっ…恥ずかしいです…」

「じゃぁ、恥ずかしくないようにしとけばいい」

体勢をかえ、私に馬乗りになると、笹塚さんはふぅとため息をついた。

「どっ…どうしたんですか…?」

「……抱いていい?」

「っ…」

耳元で低い声で囁かれ、背筋がゾクッとする。

「ずっと我慢してたけどさ、その格好は…ちょっと我慢できない気がする」

「…いいですよ」

我慢してたなんて、そんなことしなくてよかったのに。

「抱いて、ください」








笹塚さんと甘い夜を過ごし、朝を迎えた。気分はよかった。きた時より高揚している。
今日一日観光して、ちゃんと露天風呂に入ろう。
明日にはまたがやがやした都会に戻ることになる。

「おはよう…早いね、起きるの」

「おはようございます」

だるそうな笹塚さんに強く抱きつくと、髪を撫でてくれた。

「…おはよう、衛士」

「ん?なんか言った?」

「なんでもないですっ」






番外編 終わり。


あえて裏描写はしませんでしたが、二人はやっと結ばれました(笑)
書いたら寒気するぐらい甘い裏になる、かも。書く気になったら別に書きます。




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